「 ・・・ 経済効果をあげることだけが人間の生き方ではないはず ・・・ 」 宮本常一
民俗学者の宮本常一さんは、阿武川ダム水没地区の緊急民俗調査に参加されています。
1968,69年のことです。
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その折や、1960年から3か年の見島総合学術調査に携わられた際の知見や抱いた問題意識を、著作『私の日本地図 萩付近』にまとめられています。
『私の日本地図 萩付近』は、1974年の出版後長く絶版となっていましたが、昨年秋に未来社より復刊されました。
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角川政治さんが撮影された佐々連集落の写真です。
小さい石を積み上げて石垣を築き、谷あいに宅地を拡げたことが良く分かります。
炭俵3俵をニッコウで背負い、沢川に架けられた木の橋を人が渡ろうとしています。
屋敷地から川へと降りる石段が見えます。
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佐々連集落を訪れた宮本さんは集落の美しさに感激し、その印象を『私の日本地図 萩付近』に記しています。

少し長くなりますが、以下。

そこにダムができることの可否はともかくとして、何百年というほど久しくそこに住みついたところを立ち退くということについて、みな割り切れない気持ちをもっている。そういう人たちから話を聞いて記録を残すことにどんな意味があるのだろう、そういう疑問もわく。
 ・・・ そこで生活してきた姿を記録しておくことも、立ち退く人たちにとって、何らかの記念にもなるであろう、そんな気持ちで村をおとずれた。

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さらにその奥に佐々連がある。
 赤瓦葺で黄色の土壁の大きな家が川に沿うてならんでおり、どの家も川端まで石段をもっている。川端には大きな石がある。この村は紙を漉いて生活をたてていた。・・・
 ・・・ 周囲の山々は緑一色、その山と山との間の空が抜けるように澄み透って青い。その下に赤い瓦と黄色い壁の家がならんでいる。色のコントラストがすばらしい。黒白の写真ではその美しさを表現することができないが、こんなに美しい村がやがてこわされて湖底に沈んでゆかねばならぬのかと思うと、憤りに似たものをおぼえる。

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紙漉きは主として冬の仕事であった。この風景の中にはそうした苦労がそのまましみこんでいるのだが、・・・その労苦の中に生きた人たちの毅然とした美しさのようなものがにじみ出ているのである。
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・・・人間はその気になれば、自分達が安心して住み得るような世界をつくりあげていくものである。しかしそのような秩序がいま急速に、無残にこわされつつある。・・・本当はこういうようなところにも安心して住めるような世の中を作ることが最も大切ではないかと、この家々を見て思う。
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そして、過疎の問題についても。

・・・人々も生き生きとして家にも道にも野にも、それぞれ自分の仕事にはげんでいた
  ・・・そういう生き方が何故いけなくなったのであろうか。なぜ間違っているといわれるようになったのであろうか。工業文明というのはこういう生き方を否定することに意義を見出しているのだろうか。・・・
  ・・・この勤勉と計画性に報いるものがあってもいいはずである。このような生活が時代おくれのものであるとは思わない。
  ・・・経済効果をあげることだけが人間の生き方ではないはずである ・・・


1974年、今から40年前に出版された書籍の中の、古びないなかなか印象的な言葉の数々です。
豊かさというものについて、あらためて考える機会となりました。

・・・ つづく ・・・   (清水)
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by hagihaku | 2014-03-30 16:10 | くらしのやかたより
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