今季の山口県ではじめて3/7に長門市に漂着したリュウグウノツカイ。萩博物館に寄贈された直後の作業のようすを先日からこの萩博ブログでご紹介していますが、そのつづき(最終回)です。
午後、テレビ局による取材・撮影のため7人で持ち上げるという「大事業」をおこなった後、まだ数件の報道関係者の方々が来訪されるとのことで、リュウグウノツカイは大きなビニールシートに包んで萩博物館のトラックヤードに仮収納していました。 夕方、それをそろりそろりとトラックヤードから持ち出す萩博物館スタッフ。 実はその少し前、私(堀)は館内で出会った職員に片っぱしから、夕方ちょっと手を貸してほしいと伝えていました。 運悪く私とバッタリ出会って頼みごとをされてしまったH副館長(左から2番目)は、この日は重要な会議のためスーツで出勤していたため、ナマモノに接するのをためらっていました。 が、夕方前には誰よりも早くスタンバイ! どこからもってきたのか、萩博物館のイメージカラー・オレンジ色のエプロンを着用し、ノリノリで動きます! スイッチが入ると、専門の歴史だけでなく天体にも火山にもムササビにも魚にも興味が出てきて身をのり出してくる、さすが地域博物館の副館長! 萩博物館は武家屋敷をイメージした建物で、随所の壁が鮮やかな「なまこ壁」になっています。 萩博物館http://www.city.hagi.lg.jp/hagihaku/ いま、リュウグウノツカイのビニールシート包みが萩博物館の収蔵庫の外壁の「なまこ壁」の前に引き出されました。 しばらくの後、ガヤガヤと集まってきた・・・というより「招集」された萩博物館の職員。助っ人として、まちじゅう博物館の臨時職員も。 みんな、これから何が起こる・・・いや、何をさせられるかを悟っています。 そうです、山口県の歴史に残るこの巨大で貴重なリュウグウノツカイの受け入れ館として、今後も大事に保存し未来に引き継いでいく使命を担う館として、職員総出でしっかり受け止め、全員で記録をとっておこうというわけです。 さっきの午後一の部での苦い経験を経て、右端の私(堀)がさけびます。 「いいですか、すっっごく重いですからね。いきなり持ち上げようとせず、まずは魚を傷つけないよう、手をソフトに魚の下にすべりこませてくださいっ!」 「ほ~、なるほど」と全員が手を魚体の下に入れます。 「魚の下に手が入りましたか!?そしたら、そのまま手を少しだけ持ち上げ、重さを確認してくださいっ!」 みんなの手に力が入ります。 「むむっ!重いっ」 「そのまま持ち上げても大丈夫か確認し、手の位置を調整してくだっさいっ」 そうなのです、調整もせずにそのまま力まかせに持ち上げると、魚体がグニャリと手から滑り落ちることがあるので要注意! 「手の『すわり』がOKになったら、そのままゆっくり持ち上げますっ」 「いいですか!?・・・では、せ~~のっ!」 龍のような巨体が持ち上がりました。 郷土芸能で大蛇(龍?)を波打たせるように動かしているよう!? 後でも書きますが、体の前方が特に重いので、どうしても中央から後方が先に上りがちになります。 そして、シャキーンとほぼまっすぐに持ち上がった、4m38cmの巨大リュウグウノツカイ with 萩博物館職員一同。 服を汚したくないと渋っていたのに、いつの間にかノリノリのH副館長(左から4番目)。 当館に配属されたばかりなのにいきなりギトギト&ハードな作業に巻き込まれたI庶務係長(右から3番目)。 県内最大級、大迫力のリュウグウノツカイを萩博物館に迎え入れられて感無量の堀(右端)。 「作業に巻きこまれるのはいつものことだけど、今回のは特に重いっ・・・」と、あえぐ数名。 ・・・みんなそれぞれの思いを胸に、笑顔でカメラ目線。 このリュウグウノツカイはおそらく70~100kgにもなろうかという重量級なのですが、実は抱えている全員が重さにあえいでいるわけではありません。 なぜなら・・・ 写真に黄色い矢印を入れました。 リュウグウノツカイは、実はここに肛門や生殖口があります。 胃や腸や生殖腺などの内臓は矢印から右、つまり体の前方1/3に集中して詰まっているのです。矢印より左の、体の後方2/3には内臓がありません。 そんなわけで、内臓が集中している前方1/3がいちばん、ズッシリと重いのです。 この写真でいえば、右3人がいちばん重い・・・あと数秒も耐えられないというほど辛い思いをしています。 中央の3人はやや重い思いを、そして左の3人は「ああ楽しい♪」といったところ!? 顔の表情も、左の職員ほど爽やかな自然体に、右の職員ほど引きつった「つくり笑い」に見えてきませんか? 以上、みなさまにとって いつ役に立つかわからないリュウグウノツカイ持ち上げ講座(!?)でした。 リュウグウノツカイをチームで持ち上げる場合は、力が強くて服がギトギトに汚れてもいい人を前方1/3に、力は強いけど汚れたくない人(汚してはいけないVIPなど)を中央付近に、力が強くなくとも笑顔が爽やかで写真全体を和やかにできる人々を後方に配置する ― これがポイントです。 みなさま、私たちはリュウグウノツカイとたわむれて自己満足しているわけではありません。 萩博物館がこれまで地域の人々の協力を得て近海の珍魚を受け入れ資料化してきた歴史の中で、その場に居合わせることのできなかった市民・来館者・報道関係者の方々から後に「新鮮なときの写真を見せてほしい」という要望がかなりあります。そんなとき「新鮮なときにとっておけばよかった」ということになる可能性の高いショットやデータや記録をあらかじめしっかりとって公開する・・・これも地域博物館の大事な仕事なのです。 こうして、無事に午後からの計測や取材や撮影が終了。 このリュウグウノツカイは、専門家・研究者の方々との研究や、萩近海および日本海の海洋環境の調査、そして将来の企画展・特別展などに活用するため、ホルマリン漬け標本として大事に保管します。 正規の保存場所が確定するまで、俗に「カンオケ」と呼んでいる、内側にビニールシートを貼った木製の箱に収納し、ホルマリン液を入れて仮保管します。 写真(中央)は、カンオケの前で収納作業を指揮する、標本管理担当の椋木専門員。 そして、カンオケに仮収納されたリュウグウノツカイ。 報道関係者の方々や市民の方々から、「このリュウグウノツカイ、いつ展示公開するの?」とご質問をいただいています。 ホルマリン漬け標本を展示するためには、安全性が高くて側面からちゃんと見ていただけるような専用の透明な容器を手配しなければなりません。長さ4m38cmもある巨大な標本ですので、専用容器を作るにしても借りるにしても、かなり綿密な検討や準備をしなければなりません。 すぐ公開できず申し訳ありませんが、数年内に当館で開催を検討している深海生物企画展での公開を目指したいと考えています。その時をどうぞお楽しみに! (堀)
by hagihaku
| 2014-03-16 16:47
| いきもの研究室より
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